台湾の夏の街角で、ふと目に入る鮮やかな花。
それが「百日紅(さるすべり)」です。
長く咲き続けるその姿には、暑さに負けずに咲く強さと美しさがあります。
今回のブログでは、台湾の風景に馴染むこの花をいけばなで取り上げ、暑気払いの花としての魅力や文化的背景、実際にいけるコツなどをたっぷりとお届けします。
夏の終わりにぴったりのいけばな時間、ぜひご一緒に。
百日紅とは?台湾の街角に咲く夏の風物詩
台湾で見かける「百日紅」とはどんな花?
台湾の夏、街を歩いていると目に飛び込んでくる鮮やかなピンクや白の花々。
それが「百日紅(さるすべり)」です。
台湾では「紫薇(ツーヴェイ)」という名前で親しまれ、都市部の道路脇や公園、学校の敷地内などに多く植えられています。
高さが3〜7メートルほどになる中高木で、花期が長く、6月から9月にかけて3か月以上咲き続けることから、日本語で「百日紅」と呼ばれるようになりました。
その名のとおり、まるで100日も咲き続けるように見えるその姿は、真夏の台湾の風景に欠かせません。
暑さの中でもひときわ目を引くその色合いは、見る人の心をふっと軽くし、どこか懐かしい気持ちにさせてくれます。
百日紅の名前の由来と花の特徴
「百日紅」という漢字は、百日間赤く咲くという意味から来ています。
実際には赤だけでなく、ピンク、紫、白といったさまざまな色があり、風に揺れる姿はとても軽やかで繊細。
花びらがくしゃくしゃとした独特の形をしており、近くで見るとまるで紙細工のような美しさです。
また、木の幹がすべすべとしていて、猿が登ろうとしても滑ってしまう、という逸話から「猿滑り(さるすべり)」と名付けられたとも言われています。
台湾では幹の模様が美しいことも観賞価値の一つとされており、夏の終わりの風情を語る花として人気です。
なぜ台湾の街路樹に百日紅が多いのか
台湾の都市計画において、百日紅はとても重宝されている木です。
その理由は、「長く咲く」「病気に強い」「剪定しやすい」「根が強く、土壌を選ばない」といった特性があるから。
特に高温多湿な台湾の気候にも適しており、都市緑化の一環として植樹が進められてきました。
さらに、花の色が明るく華やかでありながら、過度に派手ではないため、オフィス街や学校、住宅街などどんな場所にもマッチすることも魅力のひとつ。
百日紅は、都市の風景に溶け込みながら、街に彩りとやさしさを与える存在なのです。
日本と台湾の百日紅文化の違い
日本では、百日紅は夏の終わりを象徴する花として、句や和歌にも多く詠まれています。
一方、台湾ではその実用性や花の長持ちする性質から、「開運」「繁栄」「長寿」などのシンボルとして親しまれています。
特に旧暦7月(中元節の季節)にかけて咲くことから、「祖先への供花」としても意味を持つことがあります。
このように、日本と台湾での百日紅の捉え方には微妙な違いがあり、それぞれの文化背景が反映されています。
その違いを知った上で花をいけると、より深い意味を込めることができるのです。
百日紅が咲く季節と気候との関係
百日紅が本格的に咲き始めるのは6月。
台湾ではまさに梅雨が明けて本格的な夏に入る時期です。
炎天下でもしっかりと咲き続ける力強さは、まるで私たちに「夏の厳しさに負けず、自分らしく咲いていい」と語りかけてくるようです。
8月に入ると、立秋を迎え、暦の上では秋の始まり。
けれども、まだまだ暑さが残る中で、百日紅の花はその凛とした佇まいで、涼しさと移ろいを教えてくれます。
この季節に百日紅をいけることは、まさに「暑気払い」としての花の力を借りる行為なのです。
暑気払いと百日紅 ― 夏の花がもたらす涼感
暑気払いの文化とは?台湾と日本の比較
「暑気払い」とは、夏の暑さによる疲れやだるさを取り除く風習のこと。
日本ではうなぎを食べたり、冷たいそうめんをいただいたりして、体の内側から元気を取り戻す工夫が昔から行われてきました。
台湾でも同様に、漢方茶や清涼感のある食材を取り入れるなど、暑さに負けない知恵が根付いています。
例えば青草茶や、仙草ゼリー、蓮の実のお粥などが代表的です。
こうした文化と同様に、花もまた「見ることで心に涼をもたらす」という大切な役割を担っています。
百日紅の色彩がもたらす心理的な清涼感
百日紅の持つピンクや薄紫、白などのやさしい色彩は、心理的にリラックスや清涼感を与える効果があります。
特に台湾の強い日差しの中では、その淡いトーンが目に心地よく、無意識のうちに「涼しさ」を感じさせてくれるのです。
いけばなにおいても、「色の選び方」は非常に重要です。
百日紅の色を生かして、背景に涼しげな青い花器を用いたり、ガラスの花瓶に水をたっぷり入れて透明感を出すことで、視覚からの“暑気払い”を演出することができます。
花を生けることで室内の空気が変わる理由
部屋に花があるだけで、空気感ががらりと変わるのを感じたことはありませんか?
これは実際に心理学的にも証明されていて、植物を見ることにより副交感神経が活性化し、心拍数が落ち着き、ストレスが軽減されるという効果があるのです。
また、花の色彩や形が視覚的な刺激を与えることで、部屋に活気や清涼感をもたらし、夏の疲れを和らげる手助けをしてくれます。
まさに、百日紅はいけばなの中でも“夏の癒し”として最適な花材と言えるでしょう。
いけばなで涼を感じるテクニック
百日紅を使っていけばなで涼を演出するには、以下のような工夫がおすすめです:
- 枝を高く使い、空間に余白を持たせる
- 水が見える透明なガラス花器を使う
- 一緒に青系や白系の花を組み合わせる
- 葉を控えめにして涼やかさを強調する
このように、視覚的に「軽さ」や「すき間」を作ることで、空気が通るような涼しげないけばなになります。
百日紅の枝の伸びやかなラインは、このテクニックにぴったりです。
実際に百日紅をいけてみたらどうなる?
実際に百日紅をいけてみると、その花の軽やかさに驚かされます。
枝先にふわっと花が集まっているため、重たさを感じさせず、風のように空間を流れるような印象に仕上がります。
私が台湾の台中の花市場で手に入れた百日紅を、青緑の花器にいけた時、その涼しげな佇まいに思わず深呼吸してしまいました。
暑さで疲れた夕暮れに、ただその花を見るだけで、どこか体も心も軽くなる。
そんな“花の力”を、ぜひ皆さんにも体験していただきたいと思います。
百日紅を使ったいけばなのコツ
百日紅の枝ぶりと花の扱い方
百日紅をいけばなに使うとき、最も大切なのは「枝ぶりの選び方」です。
百日紅は自然に育つと、枝が斜め上にしなやかに伸び、先端にふわりとした花房をつけます。
この曲線美をそのまま生かすことで、作品に流れるような動きが生まれます。
枝を切る際は、花の咲き具合を見て、満開より少し手前のものを選びましょう。
満開すぎると花が落ちやすく、また水揚げが難しくなります。
切り口は斜めにカットして、割りを入れるか、ハンマーで軽くたたいて導管を広げておくと、水の吸い上げがよくなります。
また、花が密集している部分は思い切って間引くと、軽やかさが増します。
いけばなでは「引き算の美」が大切。
あえてすべてを使わず、間を作ることで、百日紅の良さが引き立つのです。
色の組み合わせで引き立てるコツ
百日紅の花は鮮やかなピンクや紫が多く、その色を引き立てるためには、組み合わせる色に気を配ることが重要です。
おすすめの組み合わせは以下の通りです:
百日紅の色 | 合わせる色 | 印象 |
ピンク系 | 白・水色・薄緑 | 涼やかで清潔感 |
紫系 | 銀・淡黄色・グレー | 上品で落ち着き |
白系 | 青・黒・深緑 | モダンでクール |
例えば、紫がかった百日紅には、青磁の花器や銀色の小物を添えると、暑い季節にぴったりの涼感が出ます。
逆にあえて赤い花器にあしらって「夏の情熱」を表現するのも粋な楽しみ方です。
台湾で手に入る百日紅の種類と選び方
台湾では、花市場や園芸店、公園でも百日紅が目に入ります。
種類としては、花の色で区別されることが多く、台北や台中の市場では「紫薇紅(ピンク)」「紫薇白(白)」「紫薇紫(濃い紫)」などが流通しています。
選ぶ際のポイントは、「枝がしっかりしていて折れていない」「花がまだ少しつぼみを残している」「葉が青く元気」なものを選ぶこと。
いけばなに使う際は、枝のカーブや高さのバランスも見ておくと、いけるときにイメージ通りの構成がしやすくなります。
いけばなの型に百日紅を取り入れる方法
百日紅は自由な枝ぶりと軽やかな花房を持っているため、「生花三才型」や「自由花」の構成によく合います。特におすすめなのは以下の型です:
- 自由花(じゆうか):枝の動きを生かした自由な表現にぴったり。
- 傾真型(けいしんがた):傾いた線が多い百日紅の動きを活かせる。
- 立花新風体(りっかしんぷうたい):都会的な印象に合い、モダンな作品に仕上がる。
あまりきっちりと形を決めようとせず、枝そのものの「声」を聴くように構成するとうまくいきます。
特に初心者の方には、シンプルな自由花スタイルで、百日紅の持つ自然なリズムを楽しむことをおすすめします。
百日紅を主役にしたシンプルな花の生け方
初心者でも楽しめるシンプルな生け方として、以下のような方法があります:
- 枝を1本主役に選び、空間にゆったりと立てる
- 花の下にあしらいとして、緑の葉物(例:ユーカリ、ナルコラン)を足す
- 花器は浅くても深くてもOK。ガラスや陶器など素材感を重視する
- 全体の構成を左右対称にしすぎないように意識する
これだけでも、百日紅の美しさを十分に引き出すことができます。
1本の枝に込めた想いが、空間に広がる感覚をぜひ体験してみてください。
百日紅に込めるメッセージ|花言葉と物語
百日紅の花言葉とは?
百日紅の代表的な花言葉は「雄弁」「愛情」「潔白」「努力」。
夏の暑さの中でひたむきに咲き続ける姿から、「継続する努力」や「揺るがぬ愛」を表すとも言われています。
台湾でも百日紅は「堅持不懈(けんじふけつ)」
――つまり、あきらめないで続けるという意味で使われることがあります。
花にメッセージを込めて贈る文化は日本でも台湾でも共通していて、いけばなもその延長線上にあるのです。
台湾での百日紅にまつわるエピソード
台南に住むある老夫婦の話です。
毎年、家の前にある百日紅が咲く頃になると、奥さんが夫に花を一輪いけて見せるそうです。
「今年も咲いたね、あなたの好きな花よ」と。
ご主人は無口な人でしたが、その花を見るたびににっこりと笑うのだとか。
百日紅は、口に出せない想いをそっと花に託してくれる、そんな力があるのです。
花は言葉以上に雄弁な“語り手”なのかもしれません。
日本の文学と百日紅の関係
日本では夏目漱石の作品や俳句、短歌などにたびたび登場する百日紅。
特に有名なのが、俳句の季語としての「百日紅」。
この花が詠まれるとき、多くは“移ろいゆく季節への感傷”が込められます。
たとえば、「さるすべり しづかに咲きぬ 夕まぐれ」(与謝蕪村)という句には、百日紅が持つ静かな存在感がしっとりと表現されています。
いけばなもまた、言葉を使わない詩のようなもの。
花を通じて、物語を表す手段でもあるのです。
いけばなに託すメッセージとしての百日紅
花をいけるという行為は、自分の感情や思いを「形」にすることです。
たとえば、仕事で疲れた週末、自分へのご褒美として百日紅を一輪いけてみる。
「よく頑張ったね」「暑い中よく乗り切ったね」と、自分をいたわる気持ちを花に託して。
また、家族や大切な人へ、何も言わずに百日紅をいけて見せる。
それだけで、言葉では言い尽くせない愛情や感謝を伝えることができます。
花をいけることは、目に見えない想いを形にする、そんな魔法のような行為なのです。
家族・友人への想いを百日紅にのせて
「花を贈ること」と「花をいけること」は似ているようで違います。
贈るのは相手のため、いけるのは自分の心を整えるため。
でも、いけた花を見せることで、その想いは静かに伝わります。
台湾では旧暦の7月にあたるこの時期、祖先への感謝を表す中元節があります。
この時期に百日紅をいけて仏前に供えることで、「日々の感謝と努力の継続」を象徴的に表現することができます。
身近な誰かに、そして亡くなった大切な人にも届くような、そんな花の力を信じてみてください。
夏の終わりに百日紅を生ける意味
「秋立つ」立秋の季節感といけばな
暦の上では8月上旬に「立秋(りっしゅう)」を迎えます。
とはいえ、台湾の暑さはまだまだ続く時期。
しかし、空の高さや風の匂い、虫の声に、ほんの少し秋の気配を感じ始める頃です。
この微妙な季節の変化をいけ花で表現するのが、いけばなの面白さでもあります。
百日紅は、まさにこの「夏の終わりから秋の入り口」に咲く花です。
元気いっぱいに咲いていた花も、少しずつその色に落ち着きを見せ始めます。
いけばなでは、こうした「季節のはざま」を表現することが大切であり、それが作品に奥行きを与えるのです。
例えば、百日紅の枝を斜めに傾け、そこに実物(みもの)や草花を添えることで、夏の名残と秋の兆しを同時に感じさせることができます。
百日紅がもたらす季節の区切り
私たちの暮らしは、節目によって整えられています。
旧暦でも立秋は「気の切り替え」のタイミングとされ、夏の疲れを癒し、秋の収穫へと向かう準備期間です。
百日紅をいけることで、空間にも心にも“季節のけじめ”をつけることができます。
特にいけばなは、形を作ることで内面を整理する作用があります。
暑さでバテ気味だった心身も、花と向き合う時間の中で静かに整っていく。
その手助けをしてくれるのが、夏から秋へと移り変わるこの時期の花・百日紅なのです。
忙しさを手放す時間としてのいけばな
8月といえば、仕事や学校、家事に追われる中で、お盆や中元節といった行事もあり、心も身体も忙しくなりがちな時期。
そんな中でほんの30分、花と向き合う時間を持つことは、自分自身を取り戻す大切な行為です。
いけばなは、花をいけるという動作だけでなく、空間や静けさも含めて「自分の中の余白」を作るもの。
百日紅の枝を1本、器にさっと立てるだけでも、部屋の空気が変わり、自分の中にあったざわつきがすっと静まっていくのを感じられます。
夏の終わりに、ぜひ一度、花と向き合う時間を持ってみてください。
たとえ小さな一輪でも、きっとあなたに必要な“間”を与えてくれるはずです。
子どもと楽しむ夏の終わりの花あそび
いけばなは決して大人だけのものではありません。
子どもたちと一緒に百日紅をいけてみると、意外な発見がたくさんあります。
枝を自由に動かしたり、花の形を観察したり、香りを確かめたりすることで、自然への感性が育まれます。
「どうしてこの枝は曲がっているの?」
「この色はなに色かな?」
そんな問いかけをしながら、親子で楽しめる花の時間は、夏休みの最後の思い出としてぴったりです。
台湾では、自然とのふれあいの機会が意外と少ない都市部も多いため、こうした“家の中で自然と触れ合う体験”は、とても貴重です。
百日紅のやさしい色と風に揺れる姿は、きっと子どもたちの記憶にも残るでしょう。
花とともに過ごす、静かで美しい夕暮れ
8月の台湾は、日が落ちてもなお暑さが残りますが、それでも夕暮れの時間は少しだけ、ほっとできる瞬間。
そんな時、部屋の片隅に百日紅をいけて、ほんの一杯のお茶を淹れてみてください。
花の静けさに耳をすませるような時間。
クーラーの風ではなく、自然の風を感じながら過ごすひととき。
いけばなは、そうした“生活の質”を上げてくれる暮らしの芸術です。
百日紅がもたらすのは、ただの見た目の美しさだけではありません。
そこには心を整え、気持ちを切り替え、明日への準備をする力があるのです。
夏の終わりに、ぜひその力を感じてみてください。
まとめ
「百日紅(さるすべり)の凛とした美しさ|暑気払いの花の力」をテーマに、今回は台湾の夏の花、百日紅を通して、いけばなの魅力をお伝えしました。
百日紅はただの街路樹ではなく、私たちの心にそっと寄り添ってくれる“季節の語り部”です。
台湾の暑さの中でも元気に咲き続けるこの花は、見る人に清涼感と、静かな力を与えてくれます。
そして、いけばなとしてその花を生けることは、自分自身と向き合う時間となり、生活に小さな感動をもたらします。
今このブログを読んでいるあなたも、ふと花屋さんに立ち寄って百日紅を手にとってみてください。そして、1輪の花を通して、夏の終わりの風を、心で感じてみませんか?